夏草や兵どもが夢の跡

「社会情勢を憂いて声高に問題点を指摘する人は多くいますが、
言葉で立派なことを言っていても何の解決にもなりません。
たとえそれがどんなに小さなことであっても具体的に実行していく。
実践力がなければすべてが空論に終わります。
大切なのは自らが小善であっても行うという精神です。」


親しい友人の紹介である人と食事を共にした時のことです。


小さな食堂の畳の席の一番隅に正座されテキパキと注文するのですが
温和な眼差しとその小さな体から滲み出る何とも言えない自然な振る舞いに
この人は只者ではないと不思議な感動を受けたことを今でもよく憶えています。


例えば新入社員が入社式の朝、用を足しに来たトイレで
熱心に掃除をしていた初老の清掃員が数時間後
入社式の壇上に立っていた人だったという話や


休みの日には「日本を美しくする会」の会長として
日本全国を精力的にボランティアで訪れるので
「トイレ掃除の経営者」としても知られているようです。


東京都出身の実業家、鍵山秀三郎さん86歳は
車用品のチェーン店「イエローハット」の創業者として
一代で事業を成功させ今では年商800億円の売り上げがあるようです。


或る時、鍵山さんのこうした業績に対して
県知事からその活動に対して褒賞を贈りたいという打診があったそうですが


「栄誉なことですが、自分で誇るものでもないし、私はただ自分の志に従って
精進を重ねているだけです」といって丁重にお断わりしたと言います。


名誉博士や肩書を受けることに熱心な人は沢山いますが
自分のことに対しては厳しく律し、しかも社会奉仕をすることが
当たり前のようになっている指導者はそうはいません。


鍵山さんは言います
「夢をかなえるためには、大きなことより、むしろ日常の些細なことが大切です。
また平凡なことを徹底的にやれば、それは非凡になります。
国をよくするのは、財務大臣でも総理大臣でもありません。
国民一人ひとりのほんのちょっとした日常の生き方の集積なのです」


淡々と語られる口調に驕りも高慢さも見られないのは
徹底して下座に生きる奉仕生活の中で心が培われたからなのでしょう。


「人間の心はそう簡単に磨けるものではありません。
ましてや心を取り出して磨くことなどと言うことは到底出来ません。
心を磨くにはとりあえず目の前に見える物を磨き奇麗にすることです。
特に人の嫌がるトイレを奇麗にすると身も心も爽やかになります。
人はいつも奇麗にしているものに心が似てくるからです」


「だから、もともと世の中に雑用などというものはないのです。
雑な心でするから雑用になるだけのことです」


立派な経営理念や社訓を唱和させている会社のことをこのようにも言います。


「理念を唱和させる会社がその通りになっているかと言えば全然そうなっていない。
寧ろ掲げている理念とは違うことをやっている会社のほうが多いです。
立派な理念を掲げるよりも、毎日の仕事、社員の生活を通しての行いが、
社会の規範やルールに反しない、社会に迷惑をかけないと言うことのほうが
大事なのではないのでしょうか。」


言葉で理想論を語る指導者はいますが
その言葉と自分が一致した生き方をしているかと言えば
地位や権力に胡坐をかいてしまっている人が殆どではないでしょうか。


社会には鍵山さんのように世にはあまり知られなくとも
「一隅を照らす」地湧の菩薩のような生き方をしている人たちが少なからずいます。


以前、紹介したカンボジアで地雷撤去に生涯をかけている高山さんもその一人でしょう。
天国へ一番先に入りたい家庭連合 - 恩寵と感性


本来、氏族メシア運動とはこうした地域に密着した運動であるべきでしょうが
献金額によって名前が建物に刻まれることを栄誉に思わせるような教えは
くれぐれも自戒したいものです。


「私は西郷南洲がとても好きで敬愛しています。
何故ならあれだけの政治力や権力を行使できる位置にありながら
西郷さんの弱者に対する思いやりの深さは並の人間にはなかなかできません。
残念ながら今の指導者と呼ばれる人たちも最初は謙虚だったのでしょうが
一旦権力を手に入れると上下関係を意識するようになり次第に傲慢になっていきます」


組織が拡大すると組織を維持することや力を示すことが目的となってしまい
霊性を養い育てることが忘れがちになってしまいます。


統一運動も膨大な土地を買収し、そこに上物を造り、事業の拡大をしてきましたが
それが神の栄光に繋がったのでしょうか?


無駄に浪費された献金は結局、献金した信徒を苦しめただけで
多くの土地や事業は次々と売却されてしまいました。
パンダ自動車は中国を変えたのでしょうか?
摂理の中心だったジャルジンの膨大な土地と
理想の共同体はどこに行ってしまったのでしょうか?


芭蕉が門下の河合曽良と共に奥の細道を旅したとき
三代の栄華を誇った藤原家が分裂し滅びて行った様を句に残しています


「夏草や兵どもが夢の跡」


熱狂的に功名心を競った家来たちも全てはひと時の夢と消え
草が生い茂るばかりになってしまったということです。


理想は言葉で語るだけではなく実体で示していきたいものです。
例えそれがささやかな日常の身の回りのことであったとしても・・・。

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